A7 旧・表示指定成分とはなんですか?
1 どのように選んだのか
内外の皮膚科領域の文献や臨床データを中心に検討され(*1)、過去において一度でもアレルギー反応が認められたと報告された物質が指定されたと言われています。(*2)
一般に全く問題とならない成分でも、その人の体質、環境などで起こり得る予測の困難なアレルギー性皮膚炎を起こす可能性のある原料などです。約100種類が指定されました。
2 どんな用途のものか
用途または成分の持つ機能から分類すると次のようになると言う報告があります。(*1)
- 防腐殺菌剤:34品目
- エモリエント剤(湿潤剤):11品目
- 酸化防止剤:6品目
- 紫外線防止剤、毛髪刺激剤、乳化剤:各5品目
- 毛髪処理剤、中和剤、洗浄剤:各4品目
- 消炎剤、被覆剤、油剤:各3品目
- 収れん剤、保湿剤:各2品目
- 染毛剤、キレート剤、酵素、ホルモン:各1品目
- その他、香料およびタール色素
です。防腐殺菌剤が全体の1/3を占めて圧倒的に多く、アレルギーを起こさずに防腐効果を出すことの難しさを示していると言えます。
3 指定経過と運用の問題点
- (1)指定理由が公表されなかったこと
- このため、勝手に解釈され、指定物質がいかにも毒物であるかのように宣伝されるようになってしまいました。
- (2)汎用品ほど指定されやすいこと
- 一度でも報告があったものを指定したため、数多く使用されている原料ほど指定の対象になりやすい傾向にあります。
逆に使用頻度が少ないために表に出にくい原料が見過ごされてしまう可能性もあります。従って、表示指定成分でない物質であってもアレルギー反応を起こさないと保障がなされたものではありません。(*2) - (3)改訂を怠った
- (1)、(2)の問題がありますので当然運用の見直しがなされるべきでしたのに、約20年後の今日まで改訂がなされませんでした。
化粧品技術者を中心にデータを蓄積したのに行政サイドが動かなかったとも聞いています。
20年間蓄積されたデータを活用すれば少なくとも(2)の問題は大きく改善されたはずです。
化粧品技術者自体は安全問題に真剣に取組んでいるのに行政の壁があったり、営業面優先でそれが生かされなかったりするのは残念なことです。
4 宣伝への悪用
表示指定成分は、このようにアレルギー体質の方や、その時の体調、環境などでアレルギーが起こる可能性の判断材料を提供するものですが、宣伝に悪用されているケースがままあります。
使用していない会社のなかには表示指定成分がまるで毒物であるかのように説明したり、これさえ使ってなければ、それだけで安全が確保されているかのようにPRしている例もありますのでその見極めが大切です。
5 評論のための評論に注意しましょう
販売サイドはどうしても、自社に都合の良いように説明しますので、一般の消費者は何が正しいのか迷ってしまいますこう言う時こそ評論する人が正しい方向を示して行くべきなのに、“買っては良いの、悪いの…”と本を出したり、講演して歩く人が、表示指定成分をまるで毒物のように大騒ぎしているのに巻き込まれないように気をつけましょう。無添加処方で有名なF社が表示指定成分を一部使った例があるからといって、その会社の化粧品全部を“買ってはいけない会社”に指定している例まであります。
お肌の?(クエスション)で紹介していることが皆さんの理解の参考になれば幸いです。
表示指定成分がまるでアレルギー物質そのものであるかのように、騒ぐことの無意味さを示す例を欄外に書きました。
- ある事例から
- 東京中野にあるC化粧品会社の話です。
この会社は医師と共同で皮膚炎の患者用の化粧品を開発していますが、表示指定成分であっても、独自のテストによって問題ないと判断したものは使っています。
外部に発表されたデータで、特に安全性の高い素材を選定して行くと、自然に表示指定成分が入ってこないのは確かです。
しかし、この会社のように独自のデータを永年蓄積したなかから、自社のポリシーに従って、一部使用している例もあります。
しかも、皮膚科医で紹介される化粧品の中ではトップシェアに近く、高い評価を得ています。
このように、一部に表示指定成分を使っているからといって、その製品を一律に問題視するのは意味がありません。
- 参考資料
- *1 細田、FragranceJournal106(1982)化粧品の成分表示等をめぐる諸問題と今後の課題について
- *2 早川、FragranceJournal1011(1982)皮膚科医からみた成分表示等の意義について